東京地方裁判所 昭和41年(ワ)7054号 判決 1968年4月05日
原告 鈴木フミ
右訴訟代理人弁護士 吉村孫一
同 内谷銀之助
被告 東調布信用金庫
右訴訟代理人弁護士 大林清春
同 藤井正博
同 池田達郎
主文
原告の請求はいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一、原告
1 被告は原告に対し別紙目録記載の三筆の土地(以下本件各土地という)について、東京法務局墨田出張所昭和三八年六月一三日受付第一七八二二号の抵当権設定登記および東京法務局墨田出張所昭和三八年六月一三日受付第一七八二三号の所有権移転仮登記の各登記抹消登記手続をせよ。
2 被告より原告に対する東京法務局所属公証人喜多川元作成昭和三八年第一五四八号抵当権設定金銭消費貸借契約公正証書に基づく強制執行は許さない。
3 (一)訴外ミニコ株式会社が昭和三八年六月一二日被告と締結した消費貸借契約に基づき被告に負担した金額一、〇〇〇万円およびこれに対する昭和三九年一一月一一日から支払済まで日歩六銭の割合による遅延損害金の各債務について原告が被告に対し連帯保証債務を負担しないこと、(二)本件各土地につきミニコ株式会社の右債務を担保する抵当権の存在しないことをそれぞれ確認する。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
二、被告
原告の請求はいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二請求原因
一、原告は本件各土地の所有者であるか、右各土地には被告のため第一、一、1掲記の各登記がなされている。
二、被告より原告に対する債務名義として第一、一、2掲記の公正証書が存在し、右公正証書には、
被告は訴外ミニコ株式会社に昭和三八年六月一二日、金一、〇〇〇万円を昭和三八年九月一一日より昭和三九年六月一一日まで毎月一一日限り金一〇〇万円宛返済するものとし、利息は年一、〇五八八割の割合で毎月一一日限りその日までの一か月分を支払うこととし、元金を期日に支払わないときは支払済まで日歩六銭の割合による遅延損害金を支払う約定で貸付け、右各債務について原告と原告を連帯保証人とする契約を結び、原告が右金員返済債務不履行のときは、原告において直ちに強制執行を受くべきことを認諾した旨の記載がある。
三 しかしながら、右公正証書に記載されたような原告に対する請求権は存在していないし、前記(第一、一)抵当権も存在していない。
よって前記(第一、一、1)各登記の抹消登記手続、本件債務名義の執行力の排除、抵当権ならびに連帯保証債務の各不存在確認を求める。
第三請求原因事実の認否
第一、二項は認める。
第四被告の抗弁
一、被告は昭和三八年六月一二日、訴外ミニコ株式会社に、金一、〇〇〇万円を、元金の弁済期ならびに弁済の方法は、昭和三八年九月一一日から昭和三九年六月一一日まで、毎月一一日限り金一〇〇万円づつ返済するものとし、利息は年一、〇五八八割、毎月一一日限りその日までの一か月分を支払うこととし、遅延損害金は、支払済まで日歩六銭の約定で貸し付けた。
二、原告代理人鈴木通作は昭和三八年六月一二日被告とミニコ株式会社の右債務について同社と連帯して保証する契約を結び、同日同社の右債務を担保するため本件各土地上について抵当権を設定することを約し、同時に同社が右債務を履行しないときは、担保物件の価格を債権額と同額とみなし、右債務の履行に代えて本件各土地の所有権を移転する旨を約し、同日原告主張の各登記に及んだものである。
鈴木通作は昭和三八年六月一二日原告の代理人として原告主張のような記載のある本件公正証書作成の嘱託をし、これに基き本件公正証書が作成されたものである。
三、原告は昭和三八年五、六月頃鈴木通作に対し被告と前記連帯保証契約、抵当権設定契約、代物弁済契約を締結する代理権および本件公正証書作成嘱託の代理権ならびに執行認諾の意思表示をなす代理権を授与したものである。
このことは被告職員川井博輔が昭和三八年五月頃本件貸付に当り、担保調査のため原告方へ赴いた際原告に面会したところ、原告において担保差入を承知している旨を確認したことからも明白である。
第五抗弁事実の認否
原告が鈴木通作に被告主張のような代理権を与えたこと、川井博輔に対し被告主張のような確認をしたことは否認する
第六証拠<省略>。
理由
一、原告が本件土地の所有者であり右土地に被告のため、原告主張のとおりの各登記がなされていること、被告より原告に対する債務名義として原告主張どおりの公正証書が存在し、これに原告主張どおりの記載があることは当事者間に争いがない。
二、<証拠省略>によれば被告が訴外ミニコ株式会社と被告主張のとおりの消費貸借契約を締結したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
三、原被告間の連帯保証、抵当権設定、代物弁済予約の各契約の成立、および公正証書の作成について。
1 鈴木通作の代理権
<証拠省略>を綜合すれば、(イ)鈴木通作は原告の遠縁の者として原告と親類づきあいをしていたが昭和三二年三月頃原告の相続税の申告の事務を処理してやったことから、その後の原告の所得税、固定資産税の申告、納入に関する事務を処理するようになり、昭和三四年一二月頃原告の実印や本件各土地の登記済権利証の交付を受けて原告の相続税延納のため本件各土地に抵当権を設定したりしたが、昭和三八年五月末頃から原告の実印を預り、公正証書による原告の遺言を作成する仕事を処理して来たこと、(ロ)鈴木通作は昭和三八年五月頃ミニコ株式会社の取締役に就任したが、昭和三八年六月頃は、同社が同月末頃までに増資を完了するので、本件各土地を担保に供してその頃までの短期のつなぎ資金として金一、〇〇〇万円程度の金を同社のために借受けたいと考えていたが、同月末頃には同社の増資が完了するので、この増資金で右の借入金は必ず返済できるものと考えていたことが認められる。
次に<証拠省略>によれば、川井博輔は昭和三八年五月頃被告信用金庫の調査係長としてミニコ株式会社に対する貸付等のための調査をなすに当り原告に電話ならびに直接口頭で同社の借入について保証をしたり、不動産を担保に供する意思の有無を確かめたところ、原告は保証や担保のことは承知しているか、詳細は鈴木通作に委かせてあるから同人に聞いてもらいたい旨答えたことが認められる
以上の認定に反する<証拠省略>は採用することができない。
以上の事実と後記認定のとおり鈴木通作が原告の実印を所持して被告との契約書等を作成した事実とを綜合すれば、原告は昭和三八年五月頃鈴木通作に対し同人が取締役をしているミニコ株式会社の必要資金借入のため保証し、本件各土地を担保に提供しその他被告金庫の如き金融機関に対し保証人又は物上保証人となることを承諾するに際し通常これに必要な登記申請行為又は保証や物上保証に伴って通常行われる執行認諾を伴う公正証書の作成や代物弁済契約をすることを承諾し、これらの行為のための代理権を与えた上、原告の実印を鈴木通作に交付したものと認める外はなく、右認定に反する証人鈴木通作の証言と原告本人尋問の結果は採用できない。
2 鈴木通作の代理行為
<証拠省略>によると、鈴木通作において右乙号各証に原告の名を記し、その名下に原告の実印を押捺したものと認められるところ、右署名捺印は前記1の認定事実により鈴木通作が原告から与えられた代理権限に基き直接原告の名を示し同人から預けられた印顆を用いて作成したものであると認めるのが相当であり乙第一号証のその余の部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められ、乙第七号証のその余の部分の成立は当事者間に争いがない。
<証拠省略>と前記認定の諸事実を綜合すれば、鈴木通作は原告の代理人として被告とその抗弁にかかる各契約を締結し、本件公正証書を作成したことが認められる。
四 むすび
以上の事実によれば、原告の本訴請求の理由のないことは明白であるから、これを失当として棄却し、<以下省略>。
(裁判官 大塚正夫)